ホッテントリ経由で読んだ下記エントリについてひとつ。
株式会社マジカジャパンの羽生章洋が書いてるブログ:元請けにこだわる理由 - livedoor Blog(ブログ)
長いのでとりあえず要約する。SI業界が抱える欠陥の指摘や、著者における過去の経験も踏まえつつ、以下の流れで自社が行った革新的な挑戦を綴っている。
- どうしても元請けで仕事をやりたい
- いきなり大企業相手は難しい
- じゃあ大企業の手の及んでないところを狙っていこう
- 単価低くてもおk、生産性を上げて対処するよ
- 頑張った結果生産性が大手比で100倍になった
- 何年か頑張ったら顧客が全部元請けになったよ
個人的には生産性100倍のところを詳しく聞きたくてうずうずするのだけど、まあそれはさておき、全体的にとても素敵な話だなという印象を受けた。努力と信念がもたらす日本人好みのサクセスストーリーといった感じで、かつそこに正当性の高い問題提起と啓蒙が含まれている。興味深い内容が多く書かれているので、同業の人へは一読を薦めたい。
が、自分の中でこのエントリは、そこだけでは終わらなかった。なぜだろう、素晴らしいエントリのはずなのに、読後に手放しで賞賛とはならない。それどころか、全体を通じて得体の知れない違和感が付きまとってしまうのだ。その自分が覚えた違和感の中で、もっとも具体化できる点に対して主観のあふれた考察をしてみようと思う。
従業員の家族に迷惑をかけている?
文末へ以下のように記されている。
スタロジメンバーのご家族へ。
ご迷惑・ご面倒をお掛けし続けています。本当に申し訳ございません。皆様のご理解と支えがあってこそのスタロジです。引き続き色々と気苦労をお願いすることになりますが、遠くない将来にはそれが報われたと感じて頂けるようにしたいと考えて、日々頑張っております。何卒よろしくお願い申し上げます。
株式会社マジカジャパンの羽生章洋が書いてるブログ:元請けにこだわる理由 - livedoor Blog(ブログ)
経営者が、従業員の家族に迷惑を掛けるというのは一体どういうことか。エントリ内に、その迷惑が具体的にどのような事実を指すのかという記載は見当たらない。あくまで私見だが、経営層が間接的に従業員家族に悪影響を及ぼし、かつそれが個人的な要因ではなく従業員全般に適用できることといえば、例外的なケースを除くともう以下の2点しか存在しないように思える。
- 常態化した時間外労働(過労、および家族との時間を奪う)
- 低賃金、あるいは超過労働分未払い(生活水準の低下)
そして、この推測をさも裏付けるような記述が同エントリ内にある。
# とりあえず、以下のエピソードのあと、新婚早々に残業400時間/月とかやってて
株式会社マジカジャパンの羽生章洋が書いてるブログ:元請けにこだわる理由 - livedoor Blog(ブログ)
# さすがに「これは死ねるかも」と思う程度に、月に200時間残業とかするのは
# 当然と思っていた、それでもそれが苦にならなかったほどに一体感を持つことが出来た
# 今思うに幸せな時代の話です。私は当時の会社を今でも誇りに思っています。
弊社はまだまだ財務的にはひどい状態です。意地と引き替えにお金を投じてきました。数字は嘘をつきません。ですから財政状況だけで見られたら、駄目な会社です。それは自覚しています。経営者は決算書が通知表です。ですから私は、偉そうなことを言っても駄目な経営者です。
株式会社マジカジャパンの羽生章洋が書いてるブログ:元請けにこだわる理由 - livedoor Blog(ブログ)
もちろん謝罪自体には幾らかの謙遜を含めて発言しているのだろうと思う。ただここで言っておきたいのは、実情はこれっぽっちも迷惑を掛けていないのに、迷惑を掛けてサーセン、と主張することは、数ある社交辞令の中でもかなり(人間的に)浅く、極めて自己保身に近い表現だということ。単純な事実誤認であればまだしも、表面的な謙遜をすることで自尊心を満たすスタンドプレーだとすれば、これは他人をだしにして自己を肥大させるという程度の低い行為*1である。実際に行うかどうかは良心の問題なので、経営層たるものさすがにこの点は認識していると信じたい。よって、「従業員の家族に迷惑を掛ける要因が存在する」という元エントリの記述は事実か、あるいはそれほど現実と乖離がないものとして扱ってよいだろう。
上記をふまえて、仮に、あくまで仮に賃金や労働時間の問題があったとして、その辺を置き去りにして大きな夢を語ったり啓蒙的な表現をするっていうのはなんだかなあと思う。そりゃSIとかITにおける業界構造以前の欠陥だよ。論外。
でも、現実にそれで会社をうまく回せているのだとすれば、実はそこにこそ大きな価値があるんじゃないかと自分は感じている。賃金や労働時間が劣悪であったとしても技術者がその会社に居続けるということは、それらを上回るメリットを見出せていることの証左に他ならない。価値観に個人差はあれど、賃金、労働時間は就労先の選定要素としては比較的大きな割合を占めるだろう。だがそれらを差し置いての何かがある。それはプログラマの端くれとしてとても興味を惹かれることだ。そりゃつぶさに内情を書いていただけるとは思えないが、局所的にでもアピールしてほしい*2ことではある。
要は文脈的に、従業員の家族に迷惑をかけているという謝罪が唐突すぎるあまり何かを隠匿しているように見えてならないので、もし本当に隠しているとすればオープンにするか、でなければいっそ謝罪の段落なんて書かないほうがよかったのではないかということ。得体の知れない奴からこんな邪推をされるぐらいだしメリットは少ないでしょ。そもそも本当に家族にまで謝らなければならない実情があるとすれば、それをブログで済ますのは横着といわざるを得ないし、反対にとりあえず謝っておくか的な感覚だとすれば、それは前述の通りただのスタンドプレーで、表現の浅さを露呈している。
余談だが、直接言葉を投げかけることができる距離にいる相手に対し、わざわざブログで伝えることは個人的にはナンセンス*3だと思う。それよりも、従業員一人一人の目を見て直接会話で伝えたほうが心に響くんじゃないかな、なんて経営のけの字もやったことのない人間が言ってみる。
追記:
現実は劣悪で過酷な労働環境です
そんなスターロジックは、しかし傍から見れば非常に過酷な環境です。当社の仕事は多岐にわたる一方で、人数は少ないために色々な仕事を掛け持ちするのが当たり前の風土となっています。また当社のお客様は非常に難易度の高い問題をお持ちの方が非常に多く通り一遍の方法論では通用しないため、日夜自己研鑽と研究開発を継続していないとあっという間に取り残されてしまいます。24時間プロであり続けることを求められます。
既に「劣悪で過酷な労働環境」と断言されていた!でも文中で書かれていることは、確かに要求としてはハイレベルだとは思うけど、劣悪や過酷とまでいわれると、いやそこまででもないんじゃね?と思ってしまう。上記引用から読み取れる従業員側のリスクとしては、「人数が少なく、案件が掛け持ちになる」という点ぐらいで、その他は抽象的な記述によって劣悪過酷さを推測し難いか、あるいは取り立てて強調することでもなかったりして、肩透かしを食った気分になる。
表立って書くことはできないけど他にも色々しんどい要素があるから覚悟して面接に来てほしーの、っていう暗黙の前提が見え隠れしているなあ、恐ろしいなあ、というのはちょっと穿ちすぎかな。